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模倣子(ミーム)ってなんだっけ
ミーム(meme)という言葉を時々目にします。
人気のコンテンツ『攻殻機動隊』シリーズや『メタルギアソリッド2』の主要テーマとして。
あるいはネットビジネスやマーケティングで流行を作るものとして。
そして最近ではAI、ロボット、社会、経済の話でも目にする言葉です。
ミームとは何でしょうか。
今日はそんな好奇心から、ミームのなぞを追ってみたいと思います。
ミームを調べてみると
ミームを調べると、こんな例に出くわします。
あるサルがイモを川に落として偶然にもイモを洗うことを発見する。
泥が落ちて味が良くなることから毎回イモを洗うようになる。
それを見ていた他のサルがイモを洗うことをマネするようになる。
こうして『イモを洗う』ミームがサルの群れに広がっていく。
なるほどと思う一方、もう少しよく調べたいという気持ちも出てきました。
やはり原点を見てみよう
ミームという言葉は、リチャード・ドーキンス氏が作った言葉で、
著書『利己的な遺伝子』で発表されました。
<画像の出典 amazon>
元々11章からなる本でしたが、30周年記念(右)で12章、13章が追加され、
40周年記念(左)では、ドーキンスによる「40周年記念版へのあとがき」が新たに収録されました。
どんな本なの?
ほとんどを遺伝子についてのお話で、ミームが出てくるのは11章になってからです。
(ミームのみ調べたいなら11章から読むのも良いかと思います)
各章の概要は以下のとおり。
1章
利己的な行動と利他的な行動が『利己的な遺伝子』で説明できるという問題提起。
(また、当時としては過激な比喩が多いので読み方の注意があります。)
2章~4章
遺伝子のもととなる自己複製子が原始の地球の海、原始のスープで誕生したことと、
ダーウィンの適者生存により、自己複製子はスープ内で占める割合を競って進化してきたことについて。
注目すべき点は、生物は遺伝子の乗る生存機械として定義しています。
とはいっても、遺伝子自体に意志があるわけではありません。あくまで比喩です。

5章~10章
ゲーム理論により利己的な行動と利他的な行動の進化を説明できることについて。
ゲーム理論ではそれぞれの『戦略』が競い合い、それぞれが安定な比率(ESS)に収まるとしています。
様々な生き物とその戦略をゲーム理論で説明しているところは読んでいてとても面白いです。
11章
新たな自己複製子、ミームが登場します。
ミームは人間以外にも一部見られますが、人間の文化的進化は他を圧倒しています。
脳から脳へ自己を複製するミームは遺伝子よりもずっと早く進化していきます。
遺伝子が遺伝子プールでの生存を競ったように、
ミームは文化のプール、すなわちミームプールで自己を増殖させているのです。

互いに共存し生存価を高めあうミームもあれば、残虐にふるまうミームもあります。
この章では、人間が他の生物と違うという特異性に触れていて、その内容は必見です。
おすすめする人
- 遺伝子やミームに興味がある人。
- 進化論に興味がある人。
- 生き物とゲーム理論の関係について興味がある人。
おすすめしない人
- 比喩表現やぼかした表現が苦手な人。
- 生き物は善性によって利他的行動をするという考えを捨てられない人。
感想
上に書いたように内容はとがっていますが、いずれも納得できるものばかりでした。
また多くの生き物の例は読んでいて面白く、ゲーム理論の具体例としても興味深いものでした。
ただし、かなり慎重な書き方をされていて、少し読みづらさを感じることもありました。
それは著者自身も折に触れて書かれています。
多くの明確な具体例による一方、その具体例が普遍的なものか判断しづらいということについてです。
しかし、この本の価値がそれで減じるとは思いません。
現代では明確に分かることが優先されすぎていますが、こうした考察こそが新しい観点を与えてくれると思います。
↓↓後から読み返すための私的なメモなので、特に読まなくて大丈夫です。
もしお時間があればこの記事に関連する11章は面白いかと思います。
過不足があるかと思いますがご容赦を。
1.人はなぜいるのか
1章は本書に対するテーマと注意点を伝える。
メスのカマキリがオスを食べる利己的な行動。
猛禽に襲われた小鳥が警戒声を上げて仲間に危険を知らせ、注意を引き付ける利他的な行動。
こうした『利己的な行動』と『利他的な行動』は、どちらも『利己的な遺伝子』で説明が可能であるというテーマ。
一方、「~であるべき」ということを伝える書籍ではない。ということ。
受け入れがたい事実は否定したくなるが、善悪を問うものではなくただ事実を伝えている。
2.自己複製子
はるか昔の海、原始のスープで自己を複製することができる分子(自己複製子)が生まれた。
彼らは複製エラーにより様々なタイプに分かれていった。
長命、多産性、複製精度といったパラメータを持ち、スープ内の複製材料を消費していった。
そして複製材料をめぐって、ダーウィンの言うところの適者生存の競争がおきる。
他の複製子を攻撃し、自分の複製材料にするものもあっただろう。
(といっても分子に過ぎないので意思はないが)
あるとき身を守る膜のようなものを獲得し、細胞の元となった自己複製子があらわれる。
この時、自己複製子は自分が住む生存機械を手に入れた。
3.不滅のコイル
生存機械としての生命の寿命は短い。
しかし、複製され続ける遺伝子の寿命ははるかに長い。
ここでの遺伝子とは染色体のことではなく(目の色が『茶』や『青』といった)小さい遺伝子単位。
染色体は父母それぞれから受け継ぐが、生殖細胞が作られるときに一部が切れて交換される。(交差、交叉)
遺伝子も稀に交差で切れたり突然変異するが、全体から見ればそうそう変わらない。
染色体は多くの遺伝子が乗る船のようなもの。
交差により乗り込む遺伝子の組み合わせは変化していく。
遺伝子の生き残りには組み合わせが大切で、草食動物に肉食獣の牙が生えても有利にならない。
また、致死遺伝子と一緒にならないかといったことも重要。優れたものが残るとは限らない。
遺伝子という視点で見ると、遺伝子プールではこうした競争が続いており現代版原始のスープと言える。
昔と違うところと言えば、遺伝子プールから引き出される生存機械の中で仲間と協力して生活をたてていること。
利他的行動などの形質の進化を考えるときは「この形質は、遺伝子プール内で遺伝子の頻度にどんな影響を与えるのか?」という視点で見ると分かりやすい。
4.遺伝子機械
遺伝子の大きな枝の一つ、植物は光合成により高分子を得ることに成功した。
もう一方の動物は他者から分子を奪う必要があり、素早い動作のためには脳・神経が必要となった。
脳の優れた働きは、予測できないものをおおよそ予測するのに役立つ。
一つは学習、もう一つは脳内シミュレーションによる。
コンピュータプログラムが、プログラマーの手を離れて動くように、
遺伝子が作り出した脳も、遺伝子に直接操作されているわけではない。
人間の脳はその意志により子供を残さないなど遺伝子に逆らう働きができるが、
これは特殊な例で、多くの生物の行動は遺伝子に左右される。
遺伝子が生物の行動を左右するならば、利己的行動はどのように作られたのだろうか。
ハナバチランはハナバチを騙して過分を運ばせる。ホタルの一部は別種のホタルを誘引し捕食する。
こうした詐欺師は捕食者や獲物は別の種に属すると考えがちであるが、利害が多様化すれば、
コミュニケーションの利己的な利用もおこりうると考えなければならない。
5.攻撃 ‐安定性と利己的機械‐
5章はゲーム理論に基づく。
利他的な行動や利己的な行動が、生物に見られることはなぜだろうか。
グループ内で協力的な者ばかりの利他的なグループは、利己的なグループより有利に立つため生き残りやすいとしよう。
しかし、グループ内に突然変異で利己的な者が生まれた場合、すぐに利己的な者が繁栄してしまう。
では利己的な者ばかりになるかと言うとそうでもない。
攻撃的なタカ派は、逃走的なハト派に対して優位だが、タカ派同士は争うため大きな損失が生じる。
(ゲーム理論の説明は非常に面白いのでぜひ読んでほしい)
ハト派、タカ派の比率は、進化的に安定な戦略(ESS;evolutionarily stable strategy)により、損得のポイントが安定する状態に落ち着く。
実際にはより複雑で、報復派(タカ派だけに攻撃的)やあばれん坊派(攻撃されるまでは攻撃的)などなどが考えられる。
また、考察するときはポイントを人為的に割り振って考えるが、実際に自然がどのようにポイントを割り振るかを知るのは至難の業である。
行動の方針『戦略』で見ると上述のようになるが、遺伝子プールもゲーム理論により新たな遺伝子が参入しづらい安定な状態に落ち着く。
運よく突然変異が遺伝子プールに入り込むと、別の安定な比率に落ち着く。
6.遺伝子道
遺伝子が同じ遺伝子を残そうとするときに、近親者は同じ遺伝子を持っている可能性が高いため、近親者には特に利他的にふるまう。
兄弟では遺伝子の1/2が同じであり、いとこでは1/8が同じである。
こうした近縁の者の生存を助けることが、遺伝子を存続させることにもつながる。
また、近縁かどうかだけでなく平均余命(繁殖期待値)にもよる。
とはいっても、自分が自分の遺伝子を持っている可能性は100%なので、遺伝的血縁関係を考慮して予言した場合よりも個体の利己主義が多くみられると考えられる。
親子関係については、血縁関係のみによらない。
親による世話が進化上有利であることはあまりにも明らかである。
7.家族計画
最適一巣卵数について。
著者は群淘汰論を否定している。個体数調整について、群淘汰論では種としての善の観点からグループの利益を調整していると見る。
各個体がグループの数が増えすぎないように群の数を見て子の数を増減させると考える。
一方、遺伝子の立場から見ると、遺伝子プールで自分の遺伝子の比率を上げたい。
卵が多いことは良いことばかりでなく、子育てのリスクにより他のライバルより不利となる。
子に割り振られる卵黄や栄養など1匹あたりでは少なくなるため。
子の数はそれぞれの最適数が望ましく、最適数でないと遺伝子が残る可能性が下がる。
8.世代間の争い
6章では近縁に対する協力視点だったが、8章では争いの視点。
遺伝子を残すために、子は最大限利己的にふるまう。
空腹を大声で知らせる雛は、エサを貰っていても空腹であるかのように大声を出す。
またある種では時として兄弟殺しの行動を見せる。特に弱った個体に対しては。
(自身の遺伝子近縁度は100%だが兄弟は50%のため)
捕食者を呼ぶことで親に給餌を要求するなど親子間でのウソや騙しも行われる。
9.雄と雌の争い
遺伝子近縁度がある者でも争うが、血縁関係を持たない雌雄の関係ではどうか。
カビの一種では同型配偶子で、雌雄の差がなく2個体間で子を作れる。
雌は卵に高い栄養を与え、雄は栄養価の少ない精子をつくる。
雌雄の負担は非平衡だが、雄と雌のどちらを残すことが遺伝子に有利かを考えると、50%ずつのESSに収まる。
子育てについても、押し付け戦略や、協働戦略などの損益によりESSが決まる。
強い雄を選ぶことについても重要。
強さだけでなく、ゴクラクチョウの尾羽のように雌の選択が種の特徴を形作る。
10.ぼくの背中を掻いておくれ、お返しに背中をふみつけてやろう
互恵的利他主義について。
繫殖能力のないワーカーのハチから見る遺伝子の保存について。
女王は対で遺伝子を持つが、雄の遺伝子は相同ではなく単一である。
このため姉妹は3/4同一遺伝子となる。
これにより理想的な雄と雌のESS比は女王から見れば1:1だが
ワーカーから見れば雌3:雄1となる。実態はワーカー寄りとなっている。
裏付ける例として、別のアリを奴隷とするアリでは女王に有利な1:1に近づく。
ウイルスは生存機械にとらわれない反逆者とも見える。
一方で、我々の細胞はミトコンドリアと共生しているともいえる。
共生関係についてもゲーム理論で共生可能な状態が安定状態となるタイプを考えられる。
危険なダニを毛づくろいでお互いに取り除く場合、誰にでも毛づくろいする「お人よし」、
誰にも毛づくろいしない「ごまかし屋」、毛づくろいしない相手を無視するようになる「恨み屋」。
この3タイプで考えると恨み屋が大勢を占め、お人よしとごまかし屋は少数になって存続する。
11.ミーム ‐新登場の自己複製子
人間という種は特異な存在とみなせる。その特異性は「文化」という一つの言葉に要約できる。
言語は非遺伝的な方法で進化し、その速度は遺伝的進化より速い。
セアカホオダレムクドリのさえずり方は遺伝ではなく模倣により広まり、「さえずりプール」を形成する。
模倣し損ねることで新しいさえずりが発明されることもあり、群の中に広まる。
P・F・ジェンキンスは新しいさえずりの出現を「文化的突然変異」と表現している。
文化的進化の例は鳥類やサルの仲間に見られる特殊例にすぎない。
文化的進化の威力を本当に見せつけているのは我々の属する人間という種である。
衣服や食物の様式、儀式・習慣、芸術、建築、技術・工芸等々。
『ミーム(meme)』とは人間の文化というスープの自己複製子として定義したものであり、
文化伝達の単位、あるいは模倣の単位という概念を伝える名詞。
模倣のギリシャ語の語根をとれば<mimeme>だが、ジーン(遺伝子)の発音に似ている単音節の単語としての造語である。
ミームは遺伝子と似ている点も多いが、全く同様というわけではない。
遺伝子の生存価は寿命、多産性、複製の正確さによったが、ミームは複製の正確さについては問題がある。
また、対立遺伝子に相当するものが無いように見える。
多くの観念には対立する観念があるが、原始のスープを漂っていた初期の自己複製子のほうに似ている。
リチャード・ドーキンスは、生物の一般原理として以下のように仮説を立てている。
全ての生物は、自己複製をおこなう実体の生存率の差にもとづいて進化する。
遺伝子はその組み合わせが重要だった。
肉食獣の歯、爪、消化管、感覚器官は、草食動物の進化的に安定な遺伝子とは違う。
例えば、『宗教』というミームにおいて、『地獄の劫火』というミームは共存を促進する。
また、『盲信』というミームは証拠など必要とせず自らを正当化できる残忍な方法で繁殖していく。
聖職者にみられる『独身主義』のミームは、遺伝子から見れば失敗を運命づけられている。
しかしミーム・プールの中では成功しうる可能性がある。
もし結婚が時間と関心を彼から奪ってしまうのだとすれば独身主義のミームは結婚を促すミームより高い生存価を示しうるからだ。
ミームは脳から脳へ伝播し、自らの複製を増やしていく。
ミーム同士も資源を奪い合う競争を行っているとも考えられる。
ここで原始のスープに相当するのは、脳の容量やテレビ、ラジオの放送時間、書店のスペースなど。
ミームの単位については難しい。旋律がミームなのか楽章か交響曲か。
もし交響曲のなかで、十分に目立ち覚えやすい学区があれば一つのミームと言ってよいはずである。
また、「ダーウィン理論」のミームは、各研究者ごとに異なるところもあるが、
そうした手段上の相違はダーウィン理論のミームに含まない。
ダーウィン理論のミームとは、この理論を理解しているすべての脳が共有する本質的原則のことである。
増補改訂前では11章が最終章だった。その締めくくりとしてリチャード・ドーキンスは
人間には意識的な先見能力という一つの独自な特性がある。としたうえで、以下の点に言及している。
我々は遺伝子機械として組み立てられ、ミーム機械として教化されてきた。
しかしわれわれには、これらの創造者にはむかう力がある。
この地上で、唯一われわれだけが、利己的な自己複製子たちの専制支配に反逆できるのである。
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